要約
デジタル庁が2026年5月に行政手続オンライン化の先行実証を再更新。農地転用など許認可申請のデジタル化加速に伴い、無資格代行リスクと行政書士法違反の罰則を実務視点で解説。
デジタル庁が2026年5月に先行実証参加自治体・対象手続きを再更新
行政書士法上の無資格代行リスクが、またひとつ新たな局面を迎えた。デジタル庁は2026年5月22日、「行政手続のオンライン化に関する先行実証参加自治体と対象手続き」を更新した。これは同庁が推進する行政手続のデジタル化の一環であり、農地転用許可をはじめとする許認可申請を含む幅広い手続きがオンライン提出の対象として順次拡大されている。
こうした動きは、手続きの利便性を飛躍的に高める一方で、「オンライン対応ができるなら自社で処理できる」「ITツールを使えばコンサル会社が代わりに出せる」という誤解を企業側に生じさせるリスクをはらむ。しかし、行政書士法の規律はデジタル化によって変わらない。許認可申請書類の作成・提出代理を報酬を得て業として行うことができるのは、依然として登録を受けた行政書士に限られる。
農地転用・許認可申請の無資格代行が問われやすい理由
農地転用は、農地法に基づき農地を農業以外の用途に変更する際に必要な許可手続きであり、行政書士が代理申請を担う典型的な業務のひとつだ。申請書類の種類が多く、各自治体や農業委員会への提出形式・添付書類も複雑であるため、専門知識が不可欠とされてきた。
しかし、行政手続のオンライン化が進むにつれ、「書類をPDFで送るだけ」「フォームに入力すれば完了」という外見上の簡便さが前面に出るようになった。このとき危険なのが、許認可申請の代行を本業とするコンサルティング会社、不動産業者、あるいは社内の総務・法務担当者が「ついでに提出してあげる」という形で無資格のまま申請書類を作成・提出するケースだ。
行政書士法第19条は、行政書士でない者が業として行政書士の業務を行うことを禁じており、違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される(同法第21条)。さらに2026年改正の議論においては、法人への両罰規定の適用強化が論点として挙げられており、企業として組織ぐるみで無資格代行が行われた場合の制裁強化が検討されている。
企業法務・コンプライアンス担当者が直視すべき「デジタル化の落とし穴」
行政手続のオンライン化が進むほど、「誰でも手続きできる」という錯覚が組織内に広がりやすくなる。実際、以下のようなケースが法務・コンプライアンス担当者の間で問題視されている。
- 社内担当者によるグループ会社の農地転用申請の代行:グループ内の手続きであっても、「他人の依頼を受け報酬を得て」に該当する可能性がある。特に費用精算が行われている場合は要注意。
- ITベンダーや業務委託先による申請書類の作成:システム導入に伴うサポートとして申請書類の入力・作成を行う場合、実質的に行政書士業務の無資格代行にあたるリスクがある。
- コンサル会社が「申請サポート」と称して書類作成を実施:報酬を得ていれば業務性が認定される可能性が高く、行政書士法違反の疑いが生じる。
デジタル化によって手続きの「見た目の敷居」が下がることと、法律上の資格要件が緩和されることはまったく別問題だ。法務担当者はこの点を社内に繰り返し徹底する必要がある。
2026年改正行政書士法の動向と実務対応チェックリスト
2026年改正行政書士法をめぐる議論では、無資格者による行政書士業務の実施に対する取り締まり強化、業務委託・アウトソーシングにおける名義貸し・実質的代行の問題、そして両罰規定の見直しが主要論点として浮上している。デジタル化の進展がこうした改正論議を加速させているといっても過言ではない。
以下に、企業の法務・コンプライアンス担当者が今すぐ確認すべき実務チェックリストを示す。
- 農地転用・建設業許可・宅建業免許・産業廃棄物処理業など許認可申請の委託先が行政書士登録を有しているか確認する
- 社内の担当者が他のグループ会社分の許認可申請書類を作成・提出していないか確認する
- ITベンダーや業務改善コンサルが申請書類の作成支援を行っている場合、報酬の有無・業務内容を精査する
- 「申請サポート」「手続き代行」を名乗るサービスの利用前に、行政書士資格の有無を書面で確認する
- 行政手続オンライン化に伴うシステム導入時に、申請書類の作成工程に外部が介在しないか業務フローを再点検する
デジタル庁による先行実証の更新は、行政手続のデジタル化が加速していることを改めて示している。しかし、行政書士法コンプライアンスの観点からは、「便利になったから外部に任せる」ではなく「誰に任せるかをより厳格に確認する」姿勢が求められる。農地転用や各種許認可申請の手続き代行を外部委託する際は、必ず有資格の行政書士に依頼し、契約書や請求書に行政書士登録番号が明示されているかを確認することが、コンプライアンスリスクを最小化する第一歩となる。
よくある質問
- Q.農地転用の申請書類をコンサル会社に作成してもらうのは違法ですか?
- A.報酬を得て業として申請書類を作成・提出代理するのは行政書士の独占業務です。行政書士登録のないコンサル会社が行えば行政書士法違反となる可能性があります。
- Q.行政手続がオンライン化されても行政書士に依頼する必要はありますか?
- A.はい。オンライン化は提出方法の変更であり、書類作成・提出代理を有償で業として行う資格要件は変わりません。無資格者への委託は依然として違法リスクがあります。
- Q.社内の法務担当者がグループ会社の許認可申請書類を作成するのは問題ありますか?
- A.費用精算を伴う場合は「報酬を得て他人の依頼を受けた」と認定される可能性があり、行政書士法上の無資格代行に該当するリスクがあります。事前に顧問弁護士や行政書士に確認を推奨します。