要約
デジタル庁がマイナポータルの薬情報機能を拡充・オンライン申請を更新。行政書士法上の無資格代行リスクが高まる中、企業の法務担当者が今取るべきコンプライアンス対応を解説。
デジタル庁が2026年5月、マイナポータルの薬情報機能を大幅拡充
行政書士法が規律する許認可申請の現場に、またひとつデジタル化の波が押し寄せている。デジタル庁は2026年5月26日、「マイナポータルの薬画面で、最近受け取った薬・過去の薬・処方せんの情報をまとめて確認できるようになった」と公表した。同日には国外転出者向けマイナンバーカードのオンライン交付申請受付開始も告知され、マイナンバーを基盤とする行政手続のデジタル統合が着実に進んでいる。さらに5月22日には「行政手続のオンライン化に関する先行実証参加自治体と対象手続きを更新」したことも明らかになり、オンライン申請の対象範囲が引き続き拡大している。
こうした動きは、医療・福祉分野にとどまらず、許認可申請や在留資格、会社設立など行政書士が担う業務領域全体に影響を与える。デジタル手続が増えるほど「自社で手軽にオンライン申請できる」という誤解が広がり、無資格代行のリスクが水面下で高まる構造が生まれているのだ。
行政書士法と無資格代行:デジタル化が加速させる「グレーゾーン」の拡大
行政書士法(昭和26年法律第4号)は、行政書士の資格を持たない者が報酬を得て許認可申請書類の作成・提出代理を行うことを明確に禁じている。違反した場合、行為者個人には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科され、法人が業務として関与した場合には両罰規定により法人にも罰金刑が適用される。
問題は、マイナポータルや電子申請システムの普及により「クリックするだけで申請が完結する」という外観が生まれ、「補助業務」や「システム操作の補助」という名目で実質的な申請代行が行われるケースが増加していることだ。たとえば、補助金申請の支援を標榜するコンサルティング会社が、報酬を受け取りつつ許認可に付随する申請書類を一括作成・送信するケースは、行政書士法上の無資格代行に該当する可能性が高い。
日本行政書士会連合会(日行連)も公式に「業務は代書的業務から、複雑多様なコンサルティングを含む許認可手続の業務へと移行してきており、高度情報通信社会における行政手続の専門家として国民から大きく期待されている」と表明しており、行政書士業務の高度化・専門化が進む中で、無資格者が関与できる領域は法的にも実務的にも縮小している。
企業の法務・コンプライアンス担当者が確認すべき3つのチェックポイント
デジタル行政手続の拡大を受け、自社の業務委託・アウトソーシング体制を見直す際には以下の3点を必ず確認したい。
① 委託先の資格確認を怠らない
許認可申請(建設業許可・宅建業免許・古物商許可・産業廃棄物処理業許可など)や在留資格申請、帰化申請、農地転用に関わる書類作成・提出代理業務を外部に委託する場合、委託先が行政書士登録を有しているかを登録番号で確認することが必須だ。コンサルタントや士業を名乗っていても、行政書士登録がなければ報酬を伴う申請代行は違法となる。
② 業務委託契約書の「業務範囲」を精査する
「申請サポート」「書類準備支援」「手続き代行」といった曖昧な文言で契約している場合、実態が行政書士法上の無資格代行に相当する可能性がある。2026年改正行政書士法の施行を見据え、契約書に「行政書士有資格者が担当する」旨を明記し、担当者名・登録番号を附記することが望ましい。
③ デジタル申請ツールの「代理操作」にも注意が必要
マイナポータルや各省庁の電子申請システムを使った申請であっても、他者の申請を報酬を得て代理操作する行為は、書面申請と同様に行政書士法の規律を受ける。「オンラインだから問題ない」という認識は誤りであり、システムの利便性が高まるほど、この誤解が摘発リスクを高める。
2026年改正行政書士法の施行に向けた実務対応の急所
2026年改正行政書士法では、行政書士の業務範囲の明確化と無資格業者への監督強化が盛り込まれており、施行後は捜査機関による立件基準が厳格化される見通しだ。デジタル庁が推進する行政手続のオンライン化は、申請件数の増加と申請経路の多様化をもたらす一方で、「誰が・どのような資格で・どのような報酬体系のもとで」申請を行ったかを記録として追跡しやすい環境も整備している。つまり、電子申請ログが証拠として活用される可能性が従来より格段に高くなる。
企業の法務担当者は、社内の許認可管理フローを棚卸しし、行政書士への正規委託が行われているか、または自社内の担当者が自己申請しているかを明確にしておく必要がある。特に、補助金申請の実務支援を複数の業者から受けている場合や、コンサルティング契約に許認可申請のサポートが含まれている場合は、直ちに契約内容と委託先の資格状況を精査することを推奨する。
デジタル行政の進展は、行政書士法コンプライアンスを「現場の問題」から「経営層が認識すべきリスク」へと格上げしている。今こそ、業務委託先の資格確認と契約書の見直しを、コンプライアンス対応の最優先事項として位置付けるべき時期だ。
よくある質問
- Q.マイナポータルを使ったオンライン申請の代行も行政書士法の規制対象になりますか?
- A.はい。電子申請であっても報酬を得て他者の申請を代理する行為は行政書士法の規律を受けます。書面申請と同様に無資格代行は違法です。
- Q.行政書士法の両罰規定とは何ですか?企業にも罰則が及びますか?
- A.従業員や委託先が無資格代行を行い法人が利益を受けた場合、法人にも罰金刑が科される規定です。企業も委託先の資格確認義務があります。
- Q.2026年改正行政書士法の施行で、業務委託契約の何を見直せばよいですか?
- A.委託先の行政書士登録番号の明記、業務範囲の「申請代行」との区別、担当者名の記録が最低限必要です。曖昧な契約文言は直ちに修正を検討してください。